
Apple Watchが誕生して10年が経ちました。
2015年4月24日に初代Apple Watchが発売され、スティーブ・ジョブズ亡き後のAppleが送り出す初の新製品として、大きな注目を集めました。
それから10年、Apple Watchはスマートウォッチ市場で圧倒的な成功を収め、毎年4,000万台以上を販売し、200億ドル以上の売上を記録。今や「世界で最も売れた腕時計」とも言われています。
しかし、その歩みは順風満帆だったわけではありません。
未来の時計を目指して
Apple Watchは当初、「手首につけるiPhone」を目指して開発されました。友人にハートビートを送ったり、手書きのスケッチを送信したりと、ユニークなコミュニケーション機能も搭載されていました。しかし、これらの機能は長く続かず、後にiMessageの補助的な位置づけに。
Appleは専用のApp Storeを用意し、アプリによる機能拡張を試みましたが、ほとんどのアプリはiPhoneの簡易版にとどまり、iPhoneのようなエコシステムは築けていません。
操作面でも、デジタルクラウンやForce Touchといった新しいインターフェースを投入しましたが、これも大きなインパクトは残せませんでした。音声アシスタントSiriも期待されたほどの進化はなく、昨今のAI技術の波に乗り切れていないのが現状です。
真の価値は「健康管理」
Apple Watchが成功した最大の理由は、「健康」というニーズに応えたことにあります。
心拍数の計測、血中酸素濃度のモニタリング、睡眠トラッキング、運動の記録など、体調管理に役立つ機能が次々と追加され、Apple Watchは”健康を見守るパートナー”として存在感を高めていきました。
とくに「アクティビティリング(ムーブ、エクササイズ、スタンド)」という日々の運動目標を示す仕組みは、継続することでユーザーに強い達成感と習慣化を促しました。Appleがこの10周年を記念して4月24日を「Global Close Your Rings Day(リングを閉じる日)」とし、運動を呼びかけたのも象徴的です。
米国では健康保険会社がApple Watchを無償で提供する動きも広がり、Apple Watchの利用がユーザーの運動量を平均50%増やしたというデータもあります。
日用品ではないけれど、確かな存在感
Apple WatchはiPhoneのような「生活必需品」ではありませんが、それでも多くの人に愛され、使われています。Appleによると、これまでに累計3億台以上を出荷し、AirPodsなどと並ぶ「ウェアラブル部門」は、iPadやMacを上回る収益を生み出すまでに成長しました。
スイスの時計産業全体よりも売上が多い年もあり、「腕時計の主役交代」が現実になった瞬間でした。
価格帯も広く、アルミ製の廉価モデルから高級ブランドHermèsとのコラボまで、幅広いニーズに対応。ユーザーはストラップや本体の素材、色、デザインを自由に選べ、ファッションアイテムとしての役割も果たしています。
iPhoneにはなれなかった。でもそれでいい
Apple WatchはiPhoneのように世界を劇的に変える存在にはなれませんでした。伝統的な時計文化は依然として根強く、高級時計ブランドも生き残っています。また、Garminのようにニッチな分野で成果を上げている競合も存在します。
Apple Watchは市場を独占することなく、多様な製品の一つとして存在しているのです。
これからのApple Watchは?
ここ数年、Apple Watchの新モデルは年1回のペースで登場していますが、機能面の進化は控えめ。Appleも力の入れどころを徐々に変えてきており、AI分野の主力戦略「Apple Intelligence」からもApple Watchは外れています。
ハードウェアの制約により、高度なAI機能への対応が難しいという課題もあり、今後の進化にはある種の“自己革命”が求められるでしょう。
売上にも陰りが見え始め、2024年のウェアラブル部門の売上は前年より5.1%減少、ピーク時の2022年と比べて11%下落しています。
時計の歴史に名を刻む
Apple Watchが「次のiPhone」になることはもうないかもしれません。しかし、腕時計というカテゴリは100年以上の歴史を持つ奥深い世界です。その中にApple Watchという新しいスタイルの時計が加わったことは、間違いなく時代の節目でした。
Apple Watchは、これからも「時計の未来」を描き続ける存在であり続けるでしょう。