
── 表向きは独占禁止法、実際はユーザー獲得競争の最前線
「OpenAIがGoogleからChromeを買収しようとしている」との話題が注目を集めていますが、それを単なる「独占禁止法に絡む問題」と捉えるのは見当違いかもしれません。実際には、OpenAIが狙っているのは、数十億人規模のChromeユーザーという“既成市場”の獲得です。
米司法省の裁判で明かされたOpenAIの意図
2024年4月23日、米司法省がGoogleに対してChromeの分割を求めている裁判の第2日目に、OpenAIのChatGPTプロダクトマネージャーであるニック・ターリー氏が証人として出廷しました。彼は法廷で「もしChromeが分割されて売却されることになれば、OpenAIは入札に参加する」と明言。さらに「私たちだけでなく、業界内でもそう考えている人は多い」と発言し、OpenAIが本気でChromeの獲得を狙っていることを示しました。
彼はその場で、OpenAIが描く「AIファーストなブラウザ体験」の構想を語り、ChatGPTだけでなく、ユーザーの代わりにタスクを自動処理するAIエージェントの導入も視野に入れていると明かしました。
なぜOpenAIはChromeを手に入れたいのか?
現在、ChatGPTのアクティブユーザー数は週3億人とされていますが、Chromeの世界中のユーザー数は約34億5千万人。つまり、Chromeを手に入れれば、一気に10倍以上のユーザー接点を獲得できる可能性があるということです。
昨年には、OpenAIが「NLWeb」という自然言語ベースの次世代ブラウザを開発中との噂もありました。このブラウザは、キーワード検索ではなく、会話を通じて情報を探せるようにするものです。また、Chromeの開発に関わった著名なエンジニア、Ben Goodger氏やDarin Fisher氏をOpenAIが採用したことも報じられており、同社が本格的にブラウザ領域へ進出しようとしていることは明白です。
市場支配の象徴「Chrome」には各国が警戒
Cloudflareが2024年3月に発表したレポートによると、Chromeの世界シェアは65.85%で、他の全ての主要ブラウザの合計の約2倍という圧倒的な存在です。
そのため、各国の規制当局もChromeがGoogleの検索市場での支配力をさらに強める「要塞」と化していることに懸念を示しています。
これまではChromeが「検索への誘導ツール」として注目されていましたが、近年ではブラウザそのものが「情報収集と制御の主戦場」となってきており、AIとの融合が進めばその影響は一層深まると見られています。
Googleは拒絶、OpenAIは積極姿勢
OpenAIは以前、Googleに対してChatGPTとChromeを連携させるパートナーシップを持ちかけました。しかし、GoogleはGeminiという独自のAIエコシステムを展開しており、OpenAIとの連携は拒否されたようです。ターリー氏も「現在、Googleとは提携していない」と証言しています。
この背景には、OpenAIが検索分野でMicrosoft Bingと提携していることも関係しており、GoogleにとってOpenAIは競合そのもの。したがって、GoogleがOpenAIにChromeを譲る理由は見当たりません。
狙いは「AI時代の主導権」── ブラウザを巡る主戦場
OpenAIがChromeを欲しがるのは、単なるブラウザ市場のシェア争いではありません。AI時代における「主導権争い」の鍵となるプラットフォームとして、Chromeの巨大なユーザーベースを手に入れることで、次世代のAIエージェントサービスを展開する足がかりにしようとしているのです。
実際、OpenAIはSamsungのGalaxyスマートフォンへのChatGPT統合、さらにはApple元デザイン責任者ジョナサン・アイブ氏のスタートアップ「io Products」の買収を通じて、ソフトとハードをまたぐ巨大なAIエコシステムの構築を進めています。
まとめ:Chrome買収はOpenAIにとっての「近道」
GoogleがChromeを手放すかどうかは裁判の行方次第ですが、OpenAIがその獲得に強い意欲を見せているのは間違いありません。それは単なる戦略の一手ではなく、**AI時代において数十億人規模のユーザー基盤を一気に獲得するための“最短ルート”**だからです。
「Chromeの分割」が現実になったとき、OpenAIは新たな覇権を手にするのか──。その行方は、テクノロジー業界全体のパワーバランスにも大きな影響を与えるでしょう。