
2021年1月8日の午後、ヨーロッパの広大な電力ネットワークが、突如として真っ二つに分断されるという深刻な事態が発生しました。大規模な停電こそ免れたものの、一歩間違えれば continent (大陸) 全体に影響が及ぶ可能性もあったこのインシデント。一体何が起きたのでしょうか? WIREDの記事を手がかりに、その原因と背景を探ります。
何が起きた?ヨーロッパ電力網、突然の分断
2021年1月8日、中央ヨーロッパ時間の午後2時過ぎ。ヨーロッパ大陸の電力系統(同期グリッド)の周波数が突然不安定になりました。この異常は、送電網全体が北西部と南東部の二つのエリアに分離したことによって引き起こされました。
- 北西部エリア: フランスなどを含む地域では、電力不足により周波数が急低下。
- 南東部エリア: バルカン半島などを含む地域では、電力過剰により周波数が急上昇。
通常、ヨーロッパ全域の電力網は一つの巨大な機械のように同期して稼働しており、周波数は 50,Hz に厳密に保たれています。この同期が崩れ、システムが二つに割れてしまったのです。
幸い、システムには自動保護機能が組み込まれていました。周波数が低下した北西部では、契約していた大口産業需要家への電力供給を自動的に遮断し、需要を減らすことで周波数のさらなる低下を防ぎました。一方、周波数が上昇した南東部では、発電所の出力を自動的に抑制しました。
これらの迅速な対応により、一般家庭を巻き込むような大規模な停電(ブラックアウト)は回避されましたが、一部の産業施設では停電が発生し、事態の深刻さを物語っていました。約1時間後、両エリアは再同期され、電力網は通常の状態に復旧しました。
WIREDが報じた「原因」:クロアチアでの連鎖反応
WIREDの記事(2021年1月11日公開)や、その後の欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)による詳細な調査報告によると、この大規模な系統分離の引き金となったのは、クロアチアにあるエルネスティノボ変電所の設備故障でした。
- 最初のトリガー: エルネスティノボ変電所にある 400,kV のバスバーカプラー(送電線路を接続・切り離しする開閉装置の一種)が、過負荷により予期せずトリップ(遮断)しました。
- 連鎖的な遮断: この最初のトリップが引き金となり、数秒のうちに周辺の複数の超高圧送電線が連鎖的に遮断されました。これは、電力潮流(電気の流れ)が予期せず変化し、他の送電線に過大な負荷がかかったため、保護装置が作動した結果です。
- 系統分離: これらの連鎖的な遮断により、ヨーロッパの電力系統を物理的につないでいた経路が失われ、システム全体が北西部と南東部の二つに分離するに至りました。
つまり、一つの変電所における比較的小さな機器の不具合が、ドミノ倒しのように影響を広げ、大陸規模の電力ネットワークを分断させるという、極めて深刻な事態を引き起こしたのです。
ヨーロッパ電力網の「強さ」と「脆さ」
ヨーロッパの電力網は、国境を越えて多数の国々が接続された、世界でも有数の複雑かつ広大な同期グリッドです。これにより、各国は電力を融通し合い、再生可能エネルギーの変動を吸収したり、一部地域での電力不足を補ったりすることができます。これは大きな「強み」です。
しかし、今回の事件は、その「脆さ」も同時に露呈しました。高度に接続されているがゆえに、一箇所でのトラブルが瞬時に広範囲に波及し、システム全体の安定性を脅かすリスクがあるのです。
教訓と今後の対策
この2021年1月のインシデントは、ヨーロッパ各国に電力インフラの安定性維持の重要性を再認識させました。ENTSO-Eは詳細な原因分析を行い、再発防止策を勧告しています。具体的には、リアルタイムでの系統状況の把握能力向上、保護装置の設定の見直し、国際的な情報共有と連携の強化などが挙げられます。
現代社会は電力なしには成り立ちません。ヨーロッパでの一件は、国境を越えて繋がる電力網の安定運用がいかに重要か、そして、一つの小さな故障が連鎖反応を引き起こすリスクに常に備えなければならないという教訓を、私たちに示しています。